1. 電荷測定について

電荷量の測定は、電圧や電流ほどは広く使われていないが、基本的な測定である。電荷量を測って他のパラメータを求める場合も含めると多く使われている。 

1.1 電荷を測る

電荷を測定する機器としては、クーロンメータ、チャージアンプなどの名称のものが販売されている。微小電流と電荷の両方の測定機能を持つものはエレクトロメータと呼ばれることが多い。

測定しているものの例としては、ESD や紛体の電荷量などがある。

ESD は電子部品の故障原因となるので、その放電の電荷量の評価として測定される。

紛体の帯電量を測定する時には、ファラデーケージとクーロンメータが良く使われる。(Fig.-1を参照) ファラデーケージに帯電した紛体を入れ、その時に出てきた電荷をクーロンメータ・エレクトロメータで測定するのが一般的である。これらは電荷の総量の測定が基本で、時間変動等は問題とされない。

電荷量を測定する事で電圧(変動値)を求める場合もある。既知の容量を介して入ってくる電荷量を測定すれば、容量の先の電圧変化の大きさを知る事が出来る。非接触での電圧測定でこのような原理が使われる事もある。

電荷出力型のセンサを用いて、加速度や圧力、振動などを評価する際に、チャージアンプが広く使われる。通常は電荷入力に対して電圧(アナログ)出力となっており、その出力を各種測定装置により測定・解析を行う。測定対象の時間変化を見たい場合が多いので、必要な周波数範囲で一定な出力特性を持つようになっている。

1.2 電荷測定法

電荷量を測定する最も一般的な方法は、既知のキャパシタに電荷を蓄え、その両端の電位差を評価することで電荷量を知るというものである。容量 C (Farad ) に Q ( Coulomb ) の電荷があると、容量にかかる電圧 V ( volt ) は Q=CV となるので、この式によりキャパシタの値と電位差から電荷量を求める事ができる。

  

キャパシタを使う場合には、単純にキャパシタの測定する電荷を流し込んで両端電圧を測定するシャント型とアンプを使う積分型がある。 Fig.-2, Fig.-3 にそれぞれのブロック図を示す。

キャパシタの電荷が失われないために、シャント型の電圧計や、積分型に使われるアンプの入力抵抗は高く、入力に流れる電流が充分に小さい事が大切である。
原理としてはこれで良いが、現実的には、電荷を蓄積するキャパシタにかけられる電圧には、測定や耐圧など制限があるので、測定する電荷を無限に入れ続ける事は不可能であり、放電が必要になる。一般的には、放電してキャパシタにかかる電圧を所定の状態(通常 0 V) にする機能(リセットと呼ぶ事にする)が用意されていて、一連の測定の前にリセットして、測定を行う。この場合、測定電荷量が決められた値に達するまでは連続して測定を続けられるが、達してしまうと再度リセットをする必要がある。通常、リセットの動作中は測定できないので、完全な連続測定を時間の制限なく行なう事はできない。

前項で述べたように電荷量は電流の時間積分でも求める事ができる。この場合の電流測定の原理への制限は基本的に無い。多くの電流計は抵抗に電流を流して測定する原理を使っている。そのような抵抗センス型電流計と時間測定によっても電荷量を測定できる。 この様な場合には、リセット等の必要はないので、長い時間にわたって連続測定したい場合で、電荷量の時間変動が大きくない場合にはこちらが適している。

2. 積分型電荷量計

この章では、良く使われる積分型電荷量計についての解説を行なう。

2.1 測定原理など

ブロック図 Fig.-2 で、積分型電荷量計の測定原理を説明する。

測定の際にはスイッチ SW は開かれている。測定状態で電荷の出入りが全くなければ、アンプの出力電圧 Vo は変化しない。
簡単に測定開始時に Cs に電荷はなく Vo は 0 とする。 電荷 Q が流れ込み、容量 Cs に電荷が蓄積されると容量には V=Q/Cs の電圧がかかる。 従って、アンプの出力電圧は Vo_1 = -Q/Cs となる。この出力電圧から Qmeasure = -Vo_1*Cs と電荷量を計算する。アンプの出力波形は Fig.-4 の様になっている。

より一般的には測定開始時と終了時の差分で考える。測定開始時 to でのアンプ出力 Vo(t0)、終了時 t1 でのアンプ出力 Vo(t1) とする。 Cs にかかる電位差の変動が Vo(t1)-Vo(t0) なので、測定期間中に流れ込んだ電荷量 Qm は Qm= - Cs(Vo(t1)-Vo(t0)) と求められる。

Vo がアンプやADC の動作範囲内である場合には、連続して測定が可能である。t0 での測定開始の後、 t1,t2,t3… でVo を測定して、各時間の間の電荷量を求める事が出来る。

一連の測定を終えて、次の測定の前に Cs に蓄積された電荷をスイッチ SW を閉じて放電させて、初期状態にする。 

この方式の有利な点としては、まず入力電圧降下が小さい事がある。通常は、使われている増幅器(一般的には op-amp ) の offset 電圧程度で数 mV 以下であり、測定中の変動も極めて小さい。

等価入力インピーダンスが低いので、入力部のケーブルなどの容量があっても流れこむ電荷量を正確に測定できる。また、入力部の電圧降下による漏れ等にも強い。

蓄積する容量 Cs にかかる電圧は充分高くする事ができるので、高分解能で安定した測定も行いやすい。 

2.2 誤差・ノイズ等の要因

この節では、電荷測定計の持つ誤差やノイズの要因について解説を行なう。
Fig.-5 に DUT として容量 Cl に蓄積された電荷を測定する場合のブロック図にノイズの要素を書いた物を示す。 

ここで
Cl: DUT の容量。
  Cg : Hi, Lo 間の容量。通常は接続ケーブルの容量が主要部。
Cs : センス用キャパシタ。

以下に誤差やノイズの各要素について記す。

a) Cs の特性
キャパシタの持っている印可電圧依存性や、誘電吸収特性は電荷量測定の際の誤差や、測定時間によるバラツキに影響するので重要である。測定器では、その仕様を満足するように充分に良い特性の部品が選択されて使用される。

b) In1 : 入力部の電流性ノイズやバイアス電流
主要部となるのは、アンプの入力バイアス電流と電流性ノイズである事が多い。放電用スイッチ SW 部の持つ漏れ電流や接続ケーブル部などのもれ電流や電流ノイズもある。

バイアス電流 (Ib) は測定時間中ずっと積算されて Qe=Ib*(t1-t0) 分の誤差となる。小さい電荷量を測定するには、アンプの選択を含めてバイアス電流が小さくなっている事が大切である。測定時間が延びるとこの誤差が大きくなるので、必要以上に長い測定時間をかけるのは不利となる。

電流性ノイズ(AC) は測定結果のバラツキとして現れるが、同様に長い測定時間で不利となるので、適切な測定時間の設定が重要である。

c) Vn1: アンプの入力換算電圧ノイズ
このノイズにより Vo には Vn1*(Cs+Cg+Cl)/Cs のノイズが現れる。 このノイズの影響を考えるとCg, Cl が小さい事が望ましい。 Cl は測定対象なので変えられないが、Cg は接続ケーブル等なので、対応が可能である。Cs, Cl と比較して Cg が小さければ、このノイズに関しての主要部ではないと言えるので、Cg の大きさを考慮する際の目安となる。
 

2.3 他の用途への利用

この節では、電荷量計を他の測定に使う事を考えてみよう。

a) 電流計
前にも書いたが、電荷量とそれが測定された時間がわかれば電流が算出できるので、電流計として利用する事が可能である。

測定できる電荷量の分解能を考えると、電流分解能として小さいところまで可能。放電の必要性などもあり、全体として小さい電流の測定向きである。

一般的な電流計のブロック図を Fig.-6 に示す。電流が変化した際の系の収束は Rs, Cs の時定数によって決まり、小さい電流測定用の回路ではこの時定数は長くなる。

Fig.-2 の電荷量計の収束は、それより速くなっているのが通常である。そのため微小電流領域の測定で、電流の変動を見たい場合や、変動の大きな電流を測定では有利となる事がある。

電荷量計では、一度に測定できる最大電荷量と分解能が決まるので、測定時間を変えると測定可能電流範囲と分解能が変わる事になる。
  
b) 容量測定
ステップ電圧の印可が出来る電圧源と組み合わせて容量測定をする事も出来る。Fig. – 6 にその接続を示す。測定対象が接地されていない場合である。

電圧ステップ Vstep の印可前後に測定を行い、その値を Qm1, Qm2 とする。電圧印可によって流れた電荷量は Qm2 – Qm1 となる。 Cdut = (Qm2 – Qm1 )/Vstep と算出できる。

容量を計算する式を見ると明らかなように、電圧ステップを印可する電圧源の精度やノイズも測定結果の精度、ノイズに直接的に影響する。正確で再現性の良い測定のためには、電荷量計だけでなく、電圧源の選択にも注意が必要である。
電荷量計がフローティングになっている場合には、片側が接地されたキャパシタの容量測定も可能である。

ここで述べた電流測定と容量測定の方法を使って、Fig.-7 の様に接続したキャパシタの容量と漏れ電流の測定を、連続して行う事ができる。


 

2.4 B2985A/87A の電荷量計

この節では、B2985A/87A エレクトロメータ/ハイレジスタンスメータの電荷測定機能について、簡単に紹介する。

最小レンジは 2 nC (分解能 1 fC ) 、最大レンジは 2 μC。

積分型を採用している。 以下のような機能・特徴を持つ。

電荷量がレンジの最大に達しないように、指定のレベルに電荷量が達すると放電(リセット)させる機能(自動放電機能) を持つ。これにより、いつでも測定開始可能な状態を保つ事ができる。

一般的に積分型は入力電圧降下が小さいが、20 uV 以下と非常に小さい値になる。Self calibration 時に調整されるようになっている。

前述の電流計として使った場合を考えてみると、 2 nC レンジで 100 ms の測定時間とすれば、最大電流は 20 nA で分解能 10 fA となる。等価的に微小な電流を測定できる能力を持つ。

3. 測定において

この章では、誤差の少ない、安定した結果を得るために、測定の際に考慮すべき事などついて述べる。

3.1 測定での注意点

小さい電荷量を測定する場合に注意すべき点は微小電流の測定の場合と共通するものが多い。高感度測定ナレッジ・ポータルの “Low-level  current  measurement using B2980A series” の中の “Connecting DUT” の項を参考にしてもらえると良いだろう。 

a) 外来ノイズ
測定系に外から入ってくる電気的ノイズで、容量結合を介して入ってくる場合が多い。

Power line や各種の電圧変動を生じている物との間に容量結合があると、ノイズ電荷が入ってくる。電源配線は何処にでもあるので、常に注意する必要がある。

帯電している物との間の容量が変化するとやはりノイズになる。人間も通常帯電しているので、測定用配線から見える場所で動くと影響する。

対応としては、ノイズ源となる物との容量結合を減らす事が第一で、シールドする事が基本になる。

Power line の様に周期が判明している場合には、周期の倍数の間隔で測定する事でノイズを低減する事が出来る。

周期の長いノイズに対しては、測定時間を出来るだけ短くする事も有効である。

b) Cable / mechanical noise 
ケーブル等に振動を加えると、導体と絶縁物の摩擦により帯電が生じ、ノイズ電荷となる。

また、圧力を加えるとピエゾ効果によって電荷を生じる物もあり、やはりノイズの原因となる。

振動や、過度の圧力を避ける様に注意する事で低減できる。通常ケーブルが問題となりやすいので、振動が加わりにくいように固定する。ただし、強く固定し過ぎや、極端に曲げた状態になるのは避けるようにする。
Low noise cable と呼ばれる、振動時の電流(電荷)雑音の低減対策がされた同軸、三重同軸のケーブルがある。具体的には、摩擦電荷の生じやすい絶縁物とシールド線の接触部分の絶縁物表面に導電性がある層を設ける事が多い。この種のケーブルを使う事でケーブル部分のノイズは大きく改善できる。

ケーブルが振動するとそれにつながるコネクタ等の部分にも振動が伝わり、ノイズの元となる可能性があるので、 low noise cable を使う場合でも固定などの振動対策は重要である。.

c) 漏れ電流
電荷量計自体にも入力部にバイアス電流が存在しているが、DUT までの接続の各部の漏れ電流や、電気化学反応による電流などが流れていて、DUT からの電荷が無い状態でも電荷が測定される。

信号線の周囲の汚れと温度・湿度により影響が大きくなる場合が多いので注意が必要となる。

測定による対応としては、DUT 無しの場合との差分測定がある。測定時間などの測定条件を同一にして、DUT 無しで測定を行い、実際の測定の結果から差し引く事を行う。誤差となる漏れ電流等は変動が小さい事を前提としている方法である。

漏れ電流により測定される電荷量は測定時間を長くすると当然大きくなる。従って、長い測定時間は漏れ電流による誤差を考えると不利になる。微小電流測定の場合には、時間をかけて平均化(積分)を行うとノイズの面で有利になるので推奨される事が多いが、電荷量測定では違ってくる。長い測定時間をとると誤差やノイズは基本的に増加するので、測定系の収束時間などの必要な時間に対して、測定時間を長くし過ぎないように注意する。

おわりに

電荷量の測定の基本的な事から、実測定での注意点まで述べてきた。

主に小さい電荷量の場合について書いてあるので、測定での留意点などは微小電流測定の場合と共通する部分も多い。

ここでは、測定例までは触れてないが、ここで取り上げた事柄を実際の場面で応用し、より誤差の少ない、安定した測定を行って頂きたい。